剣法講話

目次

(一)事理一致の事

事理一致の事 -原文-

そもそも当流儀の肝心な点は技(事(わざ))にある。
義の為に技を使うのは、武術に於ける正しい道理である。その為には、第一に技の修得を基本として,強弱・軽重・進退などの動作を十分に会得しなければならない。そこで初めて、その会得した技が、敵に応じて変化するという道理を明確に理解すべきである。
たとえ技に習熟するという長所があったとしても、道理を明確に理解していなければ勝利を手に入れることは難しい。また道理を明確に理解していたとしても、技に習熟していない者は、勝利する事は出来ない、技と道理とは,車の両輪の如く、不即不離のものである。

技は外面的なものであって、これは形である。
道理は内面的なものであって、これは心である。
技と道理とに習熟することができた者は、道理を心に修得して、技を手に応用して、技に熟練しているのである。
その、技と道理とに、習熟する極みに達した時、技と道理とは一つのものとなり、内面、外面の区別はなくなる。技は道理となり,道理は技となる。

技以外のところに道理もなく,道理から離れたところに技もない。即ち、剣術を学ぶ者が、技だけにとどまって道理の善し悪しを理解しなかったり、或いは、心にだけ執着して技の可否を理解しない場合,これは偏りということになる。技や道理に偏ったり、或いは執着したりすれば、敵に応じて変化することができない者となってしまう。従って、当流儀の剣術は、事理不偏ということを要として、剣心不異に到達するための伝授を根本義としているのである。

事理一致の事 -わかり易く説明-

天眞正自源流兵法は、居合術、剣術、長刀術、槍術を包括する総合的な武術です。この流派は1508年に創始され、開祖である瀬戸口備前守政基によって確立されました。

この伝統的な武術は、日本の剣法の精髄を体現しており、居合術と剣術を中心に、長刀術や槍術も含まれています。自源流の教えは、一刀で敵を両断する精神を重視し、技術だけでなく心法と調和した修行を通じて、武士の風格を追求しています。

天眞正自源流兵法は、日本伝統の武術の一環であり、スポーツではなく、心身の調和と技術の向上を追求する道として受け継がれています。

このように、天眞正自源流兵法は、日本の武道の中でも重要な位置を占めています。技と道理の調和を追求し、剣心不異の境地に到達するための修行が行われています。

(二)有構無構の事

有構無構の事 -原文-

陣構えには、天・中・地・陰・陽の五種の形がある。
その夫々に、天・中・地・陰・陽の五種の変化がある。
古伝に於いて、構えを陰陽の二つに定め,それを体中剣,剣中体というのが是である。
陰の構えに陽の変化があり,陽の構えに陰の変化がある。従って、その構え自体に善し悪しはないのである。

どの構えでも修得し、我が心にかなった構えを用いるべきである。教伝として,そればかりを用いるという構えはない。その取捨選択は己自身にある。
構えで勝利を得たいと思う者は、外面的には充実していても、内面的には空虚となり、これを構えに心を取られていると云うのである。

内面と外面、虚と実の区別がない心境の構えを、当流派においては無形の陣と云う。間違って、心を構えに捕られてしまった者は、偶然、その構えがその場に合った時には勝利を得ることが出来るが、合わない時には即座に負けてしまう。必勝を期す構えはなく、事理一致の正しさに陣構えの必然性があるといえよう。

構は千変万化の源であり、強弱・軽重の源である。従って、無形の構えをよくよく鍛錬すべきである。陰の構えでもなく,陽の構えでもなく,その形はあっても,心をその構えにとどめない状態を無形の構えと云うのである。構えと心とが一致する位というのが,無形の構の完全な状態である。構えが千変万化するのは,物に応じて構えの形が現れて来るからである。千変万化が起こるのは、構え自体がまったく無形である為である。これを顕して、形があって、形がなく、形のようなものとなり、有構無構と伝えられる流儀の奥秘剣となるものである。

有構無構の事 -わかり易く説明-

陣構えは、天・中・地・陰・陽の五つの形態があります。それぞれの形態には、天・中・地・陰・陽の五つの変化が存在します。古伝では、構えを陰と陽の二つに分け、それを体中剣と剣中体と呼ぶことが正しいとされています。

陰の構えには陽の変化があり、陽の構えには陰の変化があるため、構え自体に善し悪しはありません。どの構えでも修得し、自分の心に合った構えを選ぶべきです。教えとして、特定の構えだけを使うことはありません。取捨選択は個々の判断に委ねられています。

勝利を求める者は、外見的には充実していても、内面的には空虚になり、構えに心を奪われていることがあります。

内面と外面、虚と実の区別がない心境の構えを、当流派では無形の陣と呼んでいます。心を構えに固執している者は、偶然にその構えが適した場合には勝利できるかもしれませんが、合わない場合には即座に敗北します。必勝を期す構えは存在せず、事理に合った正しい陣構えが必要です。

構えは千変万化の源であり、強弱や軽重の基盤です。したがって、無形の構えをしっかりと鍛錬するべきです。陰でもなく、陽でもなく、形はあっても心を構えに固定しない状態が無形の構えです。心と構えが一致する状態が完全な無形の構です。構えは物事に応じて変化し、千変万化が生じるのは、構え自体がまったく無形であるためです。これが形があってもなくても、形のようなものとなり、有構無構と伝えられる流儀の奥義となるものです。

陣構えは外見だけでなく内面との調和を重視し、無形の境地を目指す武道の要素です。

(三) 勝負一貫の事

勝負一貫の事 -原文-

剣術に於いては、負ける処と勝てない処というのを理解すべきである。負ける処というのは、まず勝てると思う処にある。勝てない処というのは、敵が十分に守りをなしている処にある。負ける理由は己にあり,勝てない理由は敵にある。勝ちたいと願う者は、自分が負ける理を理解していない。負けている処がありながら勝ちたいと願うのは、敵の勝っている処を理解していないからである。勝つことがなければ負けることもない、負けることがなければ勝つこともない。従って、十分の勝利の背後に、十分の敗北の要因があり、十分の敗北の背後に、十分の勝利の要因がある。勝って、自分が敵に負けている処を理解し、負けて、自分が敵に勝っている処を理解しなければならない。自己の事理を正しく修得し,敵の事理を推察し,敵に応じて変化すべき道理である。

勝負一貫の事 -わかり易く説明-

剣術においては、負ける要因と勝てない要因を理解することが重要です。負ける要因は、まず勝てると思う場所に存在します。一方、勝てない要因は、敵が十分に守りを固めている場所にあります。負ける理由は自分にある一方、勝てない理由は敵にあると言えます。

勝ちたいと願う者は、自分が負ける理由を理解していないことがあります。また、負けている状況でありながら勝ちたいと願うのは、敵の強みを理解していないからです。勝つことがなければ負けることもなく、負けることがなければ勝つこともありません。従って、勝利の背後には敗北の要因があり、逆もまた然りです。

自分が敵に負けている部分を理解し、同時に自分が敵に勝っている部分も理解することが大切です。自己の理論を正しく修得し、敵の理論を推察し、敵に応じて変化することが、剣術の道理です。

剣術は単なる技術だけでなく、心理的な要素や戦略的な判断も含まれています。

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