稽古へ

自源流の稽古の項目の一つに「野太刀(のだち)」があります。

野太刀とは、体力と筋力の強化のための稽古であり、現代格闘技風に言うとドリルとかサーキットトレーニングとかミット打ちサンドバッグ打ちのようなものです。

戦うための体力と筋力を養い、実際に人と戦うための肉体を作り上げるための稽古ですので、肉体疲労度的には非常にキツさを感じる種類の稽古となります。現代格闘技でも、ドリルやサーキットトレーニングはキツいですよね。

昔の武士たちも同じようにキツい体力稽古は当たり前ですがやったのです。

自源流の伝承では、入門者は最初の三年間は木刀か打ち棒による打ち廻し(いわゆる左右袈裟あるいは左右水平の軌道の空打撃=素振り)を一日で10,000打撃おこない、それを三年間継続した者は朝に8,000打撃、夕に3,000打撃の立木打ち(たてぎうち)をおこない、更に同日のうちに7,000打撃の打ち廻しをおこなうことを同じく三年間継続することを師匠から命じられたとのことです。

その土台作りである稽古をやり遂げた者は、もうそれだけで一般の人間相手なら一撃で打ち殺せるほどの肉体的能力を有するようになっています。

実際にやれば分かりますが、こんな頭のおかしな数字を毎日反復することをやり遂げる精神力と、その修行をやったことによって身に付いた肉体的能力は文字通り化け物と称されるに相応しいものとなっていると容易に想像出来ます。

昔の自源流では、この戦うための土台となる精神と肉体を鍛え上げることからスタートし、それをやり遂げた精神力と肉体の強さを持つ者にのみ、真剣刀法の修行をおこなうことを許可したようです。

土台が無ければ、いくら真剣刀法の技法を稽古しても実際の戦闘では役には立たないということは想像するに難くないですからね。これは、素手の戦闘術でも武器の戦闘術でも同じだと思います。

現在の自源流の綜師範の父上である先代の先生も、門下に必ず防具付きの実戦稽古をやるように説いていたとのことです。

ただ、自源流もその在り方を時代の変遷と共に変化させていったので、現在では昔のような頭のおかしな数の立木打ちや打ち廻しをおこなうこともなく入門してすぐに抜刀納刀の稽古や、抜之法形(ぬきのほうけい/いわゆる居合形)の稽古をやっています。

土台作りの修行項目である野太刀は、希望者が自主的におこなうのみとなっています。

立木打ちも打ち廻しも野太刀の項目の一つであり、他にも様々な修行項目が存在し、それぞれで身に付けるべきことの目的が異なります。

私は入門して3年間となります。約2年半、自主的に立木打ちの稽古をしています。

立木打ちは、一呼吸の間に連撃するやり方では、「一呼吸の間に30打撃」おこなえることが初級の合格ラインとなり、一呼吸ではなく続けて連打するやり方では、「1セットで300打撃」おこなえることが初級の合格ラインとなるとのことです。

約2年半の継続で、現在は1セットで1000打撃おこなえるようにはなりました。それに要する時間は約15分です。

最初は1セットで100打撃もおこなえなかったことを思うと2年半の修錬が少しずつ実りを見せてくれたことを感じます。

始めた頃に1000打撃やるのに要した時間は約1時間でしたので、継続は力なりを実感します。

地道な努力が実るのは、武術で無くともきっと同じと信じます。

加地

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